目次
― 奥歯で噛めない日常から、もう一度“食事を楽しめる”毎日へ ―
過去の虫歯治療により右上奥歯と左下奥歯を抜歯され、その後は前歯で何とか食事をされていた75歳男性の患者様です。
しかし転倒により前歯を破折・抜歯したことで、食事が一気に難しくなり、
「噛めないことで食事が楽しくなくなった」
「もう一度きちんと噛めるように治したい」
という強いご希望で来院されました。
欠損部の治療についてはインプラントは希望されず、入れ歯による回復をご希望。
“奥歯でしっかり噛める口元”を目標に、段階的な入れ歯治療をスタートしました。
はじめに ― 歯を失い、噛みにくさを感じている方へ
奥歯を失ったままの状態が続き、前歯だけで食事をされている方は少なくありません。
痛みがなければ日常生活は何とか送れてしまうため、治療のタイミングを逃してしまうケースも多く見られます。
今回ご紹介するのは、過去に奥歯を抜歯され、その後は前歯で食事を続けていた患者様の症例です。
転倒により前歯を失ったことで食事が困難となり、「もう一度きちんと噛めるようになりたい」というご希望で来院されました。
欠損部の治療についてはインプラントは希望されず、入れ歯による回復を選択。
奥歯で噛める状態を取り戻すことを目的に、段階的な入れ歯治療を行いました。
初診時の状態
・過去の虫歯により右上奥歯と左下奥歯を抜歯済み
・前歯で何とか食事をしていたが、転倒により前歯を破折し抜歯
・奥歯で噛めず、前歯だけに負担が集中している状態
・食事がしづらく、「食べる楽しみ」が大きく低下
・欠損部の治療について不安を感じて来院
初診時は奥歯の欠損により十分な咀嚼ができず、前歯への負担が大きい状態でした。
「食事が楽しくなくなった」「もう一度しっかり噛めるようになりたい」と強く希望されていたのが印象的です。
まずは入れ歯治療への不安を取り除くことから
このようなケースで大切なのは、いきなり最終的な入れ歯を作製するのではなく、噛み合わせの条件を整えたうえで、段階的に治療を進めることだと考えています。
本症例では、歯を失ってから時間が経過していたため、左上奥歯と右下奥歯が挺出し、対合する歯ぐきに食い込んでいる状態でした。まず被せ物治療により挺出した歯の位置を整え、上下の噛み合わせを回復させたうえで、上下ともに保険の部分入れ歯を作製しました。
奥歯で食事ができるようになり患者様にも喜んでいただきましたが、装着から約3ヶ月が経過した頃、「厚みが気になるため、もう少し薄くして異物感を減らしたい」とのご相談がありました。
保険義歯の床(ピンク色の部分)はレジン(樹脂)で作られるため、破折を防ぐ目的で一定の厚みが必要になります。そこで、床部分を金属で作製する金属床義歯であれば強度が高く、薄く作れるため異物感の軽減が期待できることをご説明しました。併せて、追加治療としてバネを支える被せ物の形態を作り直す必要があること、また長期間使用せず放置すると適合が悪くなり再製作が必要となる可能性がある点もお伝えしました。
患者様は内容をご理解・ご納得され、上下金属床義歯とバネを支える被せ物の治療を行う方針となりました。
治療の流れ:被せ物治療と義歯治療を行った症例
今回のゴールは、
・奥歯でしっかり噛める状態をつくる
・入れ歯の違和感をできるだけ減らす
・長く安定して使える口腔環境を整える
という3点です。
1)挺出した奥歯を被せ物で整え、噛み合わせを回復
歯が抜けてから時間が経過していたため、左上奥歯と右下奥歯は挺出し、対合する歯ぐきに食い込んでいる状態でした。
まずは被せ物治療により伸び出した歯の位置を元に戻し、上下の噛み合わせを整えました。
そのうえで、上下ともに保険の部分入れ歯を作製し、奥歯で噛める状態の回復を図りました。
2)まずは保険義歯で機能回復し、使用感を確認
保険の入れ歯装着後は奥歯で食事ができるようになり、患者様にも喜んでいただけました。
しかし装着から約3ヶ月が経過した頃、「入れ歯の厚みが気になる」「もう少し薄くして異物感を減らしたい」とのご相談がありました。
保険義歯の床部分はレジン(樹脂)製のため、破折を防ぐ目的で一定の厚みが必要になります。

3)金属床義歯へ移行し、違和感の軽減を図る
そこで床部分を金属で作製する金属床義歯をご提案しました。
金属床は強度が高いため薄く作ることができ、異物感の軽減が期待できます。
併せて、
・バネを支える被せ物を新しく作り直す必要があること
・長期間使用せず放置すると適合が悪くなり、再製作が必要になる可能性があること
といった点も含め、メリット・デメリットを丁寧に説明しました。
患者様は内容をご理解・ご納得された上で、上下金属床義歯とバネを支える被せ物の治療を行う方針となりました。
初めて入れ歯を使用するので入れ歯治療に対して行った注意点
①慣れるまで時間がかかるため入れ歯を修理調整する(痛いところの修正や裏打ちの形の修正)
②就寝時以外は必ず装着し慣れてもらうこと。
③就寝時は外して洗浄剤を使用すること、食事後は必ず外して綺麗にすること
④入れ歯をすると舌が狭く感じるが舌のトレーニングを行い入れ歯の形に慣れること
治療後の症例写真
完成後は義歯の厚みも薄くなり、食事や会話については約1ヶ月ほど慣れる期間が必要でしたが、「以前より話しやすくなった」と喜んでいただけました。
今回が初めての入れ歯治療でしたが、まず保険義歯を受け入れて使用していただき、ご自宅での清掃管理も丁寧に行っていただけたことが、金属床義歯へのステップアップを検討するうえで大きな判断材料となりました。
今回のケースでの自費診療の費用
| 治療内容 | 数量 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 金属床義歯 | 2床 | 1床440,000円 × 2 = 880,000円 | 上下 |
| 義歯精密印象 | 4回 | 1回11,000円 × 4 = 44,000円 | — |
| 咬合採得 | 1回 | 5,500円 | — |
| フレーム試適 | 1回 | 5,500円 | — |
| ゴールドクラウン | 4歯 | 1歯220,000円 × 4 = 880,000円 | 金相場で変動 |
| ゴールドブリッジ | 3歯分 | 1歯220,000円 × 3 = 660,000円 | 金相場で変動 |
| 単歯印象 | 6歯 | 1歯5,500円 × 6 = 33,000円 | — |
ゴールドクラウン・金属床義歯のメリット・デメリット
ゴールドクラウン
メリット
- 汚れが付きにくい
- 削る量が少なく、割れるリスクが低い
- 保険の金属より柔らかくしなるため、対合歯が咬耗しにくい
デメリット
- 審美性が劣る
- コストが高い
金属床義歯
メリット
- 保険義歯と比べて薄く作れるため、異物感が少なく話しやすい
- オーダーメイドで作製するため装着感が良い
- 金属製のため割れにくい
デメリット
- 人工歯部分は金属ではないため割れる可能性がある
- バネが見えるため審美性は良くない
- 保険義歯を使用できない場合は対応が難しい
- 長期間使用せず放置すると適合が悪くなり、再製作が必要になる
まとめ:歯を失い、噛みにくさを感じている方へ
歯を失っても、痛みがなければ日常生活は何とか送れてしまうことがあります。
しかし奥歯を失ったまま前歯だけで噛み続ける状態は、徐々に噛み合わせのバランスを崩し、さらなるトラブルにつながる可能性があります。
本症例では、まず噛み合わせを整えたうえで保険義歯により機能回復を行い、その後、使用感を確認しながら金属床義歯へと段階的に移行しました。
いきなり最終治療を行うのではなく、患者様の状態やご希望を踏まえながら治療を進めることが、安定した結果につながったと考えています。
「どこから治療を始めればよいか分からない」「入れ歯で本当に噛めるようになるのか不安」そのようなお悩みをお持ちの方も少なくありません。
適切な診断と治療計画により、噛める状態を取り戻すことは可能です。
歯を失ったままお困りの方は、まずは一度ご相談ください。
今のお口の状態を正しく知ることが、将来を守る第一歩になります。
歯科医師:佐々木 智章

<経歴>
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- 2010年 愛知学院大学歯学部卒業
- 2011年 愛知学院大学臨床研修医
- 2012年 アップルデンタルクリニック勤務医
- 2014年 ササキ歯科・ササキ矯正歯科勤務
<資格・所属学会>
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- 愛知県歯科医師会
- 名古屋市東区歯科医師会
- MDIベーシックコース
- MDIインプラントコース
- ストローマンインプラントコース
- CAD/CAM Curving & Polishing
- CAD/CAM Preparation & Training
- アストラテックインプラントシステムベーシックコース
- 顎咬合学会
- LCDCベーシックコース
