前歯のガタガタが気になり、「前歯だけをきれいに並べたい」というご希望で来院された20代女性の患者様です。
奥歯にはすでに被せ物が多く入っていたため、すべての歯を動かす全顎矯正ではなく、気になる前歯だけを整える部分矯正を希望されていました。
また、できるだけ短期間で治療を終えたいというご希望もありました。
診査の結果、全体の噛み合わせや骨格的な大きな問題よりも、前歯のガタつきが主なお悩みであったため、前歯部に限定した部分矯正を行う方針となりました。
今回は、ブラケット治療とリンガルアーチを併用し、約1年かけて前歯の歯並びを整えた症例をご紹介します。
目次
はじめに ― 前歯のガタガタだけを治したい方へ
前歯の歯並びは、笑ったときや会話をするときに目立ちやすい部分です。
そのため、奥歯の噛み合わせには大きな不便を感じていなくても、「前歯のガタガタだけが気になる」「笑ったときの見た目を整えたい」とご相談いただくことがあります。
一方で、歯並び全体を治す矯正治療となると、治療期間や費用、装置をつける範囲などが気になり、なかなか治療に踏み出せない方も少なくありません。
特に、奥歯に被せ物や連結冠が多く入っている方の場合、全顎矯正を行うことで、すでに入っている補綴物をやり直す必要が出てくることがあります。
その場合、矯正治療の費用だけでなく、被せ物の再治療にかかる費用や治療期間も必要になる可能性があります。
このようなケースでは、症例によって「気になる前歯だけを整える部分矯正」が選択肢になる場合があります。
部分矯正は、すべての歯並びを大きく動かす治療ではありませんが、前歯の軽度から中等度のガタつきなど、条件が合う場合には、比較的短期間で見た目や清掃性の改善を目指すことができます。
今回ご紹介する患者様も、奥歯には被せ物が多く入っていたため、「奥歯の治療を大きくやり直すのではなく、前歯だけを整えたい」というご希望をお持ちでした。
初診時の状態
・前歯のガタガタが気になる
・奥歯には被せ物が多く入っている
・奥歯の補綴物を大きくやり直すのではなく、前歯だけを並べたい
・すべての歯並びを治すほどの時間はかけにくい
・できるだけ短期間で気になる部分を改善したい
初診時は、前歯にガタつきがあり、笑ったときの見た目に影響しやすい状態でした。
前歯が重なっている部分は歯ブラシが当たりにくく、汚れが残りやすくなるため、見た目だけでなく、虫歯や歯ぐきの炎症などにつながる可能性もあります。
また、奥歯にはすでに被せ物が多く入っていました。
このような場合に全顎矯正を行うと、奥歯の被せ物の形態や噛み合わせを調整する必要が出ることがあり、矯正治療後に補綴物の再治療が必要になるケースもあります。
患者様は、奥歯の被せ物をできるだけ大きく触らず、前歯のガタガタを中心に改善したいというご希望をお持ちでした。
そのため、現在の噛み合わせや歯の並び方、歯を動かせるスペースなどを確認したうえで、部分矯正で対応できるかどうかを慎重に診断しました。
部分矯正とは?全顎矯正との違い
部分矯正とは、歯並び全体ではなく、前歯など気になる部分に限定して歯を動かす矯正治療です。
全顎矯正では、上下の歯列全体を対象にして、歯並びだけでなく噛み合わせ全体のバランスを整えていきます。
一方、部分矯正では治療範囲を限定するため、症例によっては治療期間を短くできる場合があります。
今回のように、「奥歯には被せ物が多いが、前歯は大きな処置をしていない」「奥歯の治療をやり直すのではなく、前歯のガタつきだけを整えたい」という場合には、部分矯正が有効な選択肢になることがあります。
ただし、部分矯正は万能な治療ではありません。
歯のガタガタが大きく、抜歯が必要になる場合や、出っ歯の程度が強い場合、骨格的なズレが大きい場合には、部分矯正だけでは十分な改善が難しいことがあります。
そのため、部分矯正を希望される場合でも、まずは現在の歯並びや噛み合わせを正確に診断し、部分矯正で対応できる範囲かどうかを確認することが大切です。
まずは部分矯正の適応かどうかを見極めることが大切です
部分矯正で大切なのは、「気になる部分だけを動かせばよい」と安易に判断しないことです。
前歯だけが気になっている場合でも、そのガタつきの原因が奥歯の噛み合わせや顎の骨格に関係していることがあります。
その場合、前歯だけを動かしても十分な改善が得られなかったり、治療後に歯並びが安定しにくかったりすることがあります。
今回の症例では、患者様の主訴は前歯のガタガタでした。
奥歯には被せ物が多く入っていたため、全顎矯正を行うと補綴治療のやり直しが必要になる可能性がありました。
そこで、前歯のガタつきの程度、奥歯の被せ物の状態、噛み合わせへの影響、治療期間のご希望をふまえ、前歯部に限定した部分矯正で治療を進める方針としました。
患者様にも、部分矯正で改善できる範囲と、全顎矯正と比べた場合の限界についてご説明し、ご理解いただいたうえで治療を開始しています。
患者様には、
・前歯のガタつきを中心に改善する治療であること
・噛み合わせ全体を大きく変える治療ではないこと
・症例によっては部分矯正が適応にならない場合があること
・治療後は保定が必要になること
について丁寧にご説明し、ご納得いただいたうえで治療を進めました。
治療の流れ:前歯部の部分矯正で歯並びを改善した症例
今回の治療のゴールは、
・前歯のガタつきを改善する
・奥歯の被せ物への影響をできるだけ抑える
・比較的短期間で見た目を整える
・歯磨きしやすい口腔環境をつくる
という4点です。
① 精密検査で前歯のガタつきと噛み合わせを確認
まずは、前歯のガタつきの程度や歯の重なり方、噛み合わせの状態を確認しました。
部分矯正は治療範囲を限定するため、前歯だけを動かしても噛み合わせに大きな悪影響が出ないかを事前に確認することが大切です。
また、奥歯の被せ物の状態も確認し、全顎矯正ではなく部分矯正で対応できるかを検討しました。
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② 部分矯正の適応を診断し、治療計画を立案
検査結果をもとに、前歯部の部分矯正でどこまで改善できるかを診断しました。
今回の症例では、主なお悩みが前歯のガタガタであり、奥歯の補綴物への影響をできるだけ抑えたいというご希望もあったため、前歯部に限定した部分矯正を選択しました。
部分矯正で対応できる範囲と、治療後に保定が必要になることも含めてご説明しています。
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③ ブラケット治療とリンガルアーチを併用
治療では、前歯部のブラケット治療を行い、歯を少しずつ正しい位置へ動かしていきました。
また、歯の移動を安定させるためにリンガルアーチも併用しています。
リンガルアーチは、歯の裏側に装着する補助装置で、歯を動かす際の固定源として使用することがあります。
前歯だけを整える治療であっても、歯を計画通りに動かすためには、装置の選択と力のコントロールが重要になります。
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④ 月1回の調整で前歯を少しずつ整える
矯正治療中は、月1回程度の通院でワイヤーの調整を行いながら、前歯のガタつきを少しずつ改善していきました。
歯を動かすスピードには個人差があるため、無理に強い力をかけるのではなく、歯や歯ぐきの状態を確認しながら慎重に進めることが大切です。
治療中は、装置の違和感や歯磨きのしづらさが出ることもあるため、セルフケアの方法も確認しながら進めました。
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⑤ 約1年で前歯の歯並びを改善
本症例では、約1年、通院回数約12回で前歯のガタつきを改善しました。
治療後は、前歯の並びが整い、笑ったときの見た目が自然に改善しています。
また、歯の重なりが改善したことで歯磨きもしやすくなり、口腔内環境の改善にもつながりました。
実際に使用した器具

部分矯正を行ううえでお伝えした注意点
部分矯正は、気になる部分だけを整えられる治療ですが、すべての症例に適応できるわけではありません。
そのため、治療開始前には、部分矯正でできること・できないこと、治療中のリスク、治療後の注意点について丁寧にご説明しました。
① 部分矯正では対応できないケースもあること
ガタガタの程度が大きい場合や、抜歯が必要になる場合、出っ歯の程度が大きい場合、骨格的なズレが大きい場合などは、部分矯正では十分な改善が難しいことがあります。その場合は、全顎矯正を含めた治療計画を検討する必要があります。
② 噛み合わせ全体の改善には限界があること
部分矯正は、前歯など一部の歯並びを整える治療です。噛み合わせ全体を大きく改善したい場合や、奥歯の位置関係に問題がある場合には、部分矯正だけでは対応が難しいことがあります。
③ 装置に慣れるまで違和感が出ることがある
ブラケット装置やリンガルアーチを装着すると、最初は話しづらさや舌の違和感、食事のしづらさを感じることがあります。多くの場合、少しずつ慣れていきますが、痛みや装置の当たりが強い場合には調整が必要です。
④ 治療中は歯磨きを丁寧に行うこと
矯正装置の周囲には汚れが溜まりやすくなります。前歯のガタつきが改善していく途中でも、装置の周囲は磨きにくくなるため、毎日の歯磨きや補助清掃用具の使用が大切です。
⑤ 治療後は保定が必要になること
矯正治療で歯を動かした後は、歯が元の位置に戻ろうとする後戻りが起こることがあります。そのため、治療後は保定装置を使用し、整えた歯並びを安定させることが大切です。
治療後の症例写真
治療後は、前歯のガタつきが改善し、笑ったときの見た目が自然に整いました。
前歯の重なりが改善されたことで、歯ブラシが当たりやすくなり、歯磨きもしやすい状態になっています。
歯並びが整うことで見た目の印象が良くなるだけでなく、磨き残しが減り、口腔内環境の改善にもつながります。
今回の症例では、奥歯の被せ物への影響をできるだけ抑えながら、患者様が気にされていた前歯のガタつきを約1年で改善することができました。
部分矯正は、適応をしっかり見極めることで、気になる部分を効率よく整えられる治療方法のひとつです。
今回のケースでの自費診療の費用
| 治療内容 | 数量 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 検査 | 1回 | 55,000円 | 初診時 |
| 診断 | 1回 | 33,000円 | 治療計画立案 |
| 矯正初期費用 | 1式 | 250,000円 | 前歯部部分矯正 |
| 処置料 | 約12回 | 4,400円/回〜 | 月1回 |
※治療期間は約1年、通院回数は約12回です。
※矯正歯科治療は、公的健康保険の対象外となる自由診療(自費診療)です。
※治療内容や期間、使用する装置により費用は変動する場合があります。
部分矯正のメリット・デメリット
気になる前歯だけを整えられる
部分矯正では、前歯など気になる範囲に限定して歯を動かすことができます。すべての歯並びを大きく変えるのではなく、患者様が特に気にされている部分の改善を目指せる点が特徴です。
比較的短期間で治療できる場合がある
治療範囲が限定されるため、症例によっては全顎矯正よりも短い期間で治療を終えられることがあります。本症例でも、約1年で前歯のガタつきを改善しました。
奥歯の被せ物への影響を抑えられることがある
奥歯に被せ物や連結冠が多い方の場合、全顎矯正では補綴物の再治療が必要になることがあります。部分矯正で対応できる場合は、奥歯の補綴物への影響を抑えながら前歯を整えられる可能性があります。
歯磨きがしやすくなり、口腔内環境の改善につながる
前歯のガタつきが改善されると、歯ブラシが当たりやすくなり、磨き残しを減らしやすくなります。見た目だけでなく、虫歯や歯ぐきの炎症予防にもつながることがあります。
すべての症例に適応できるわけではない
部分矯正は、軽度から中等度のガタつきなどに適している場合がありますが、歯並びの乱れが大きい場合には適応が難しいことがあります。
噛み合わせ全体の大きな改善には向かない
部分矯正は一部の歯を動かす治療のため、奥歯を含めた噛み合わせ全体を大きく改善する目的には向いていません。噛み合わせ全体の治療が必要な場合は、全顎矯正を検討する必要があります。
ガタつきが強い場合は全体矯正が必要になることがある
前歯の重なりが大きく、歯を並べるスペースが足りない場合には、部分矯正だけでは十分に改善できないことがあります。抜歯を伴う全顎矯正が必要になる場合もあります。
歯肉退縮や歯根吸収のリスクがある
矯正治療では、歯を動かすことで歯ぐきが下がる歯肉退縮や、歯根が短くなる歯根吸収が起こる可能性があります。治療中は歯や歯ぐきの状態を確認しながら慎重に進める必要があります。
まとめ:前歯のガタガタを短期間で整えたい方へ
前歯のガタガタは、笑ったときの見た目だけでなく、歯磨きのしづらさや磨き残しにもつながることがあります。
痛みがない場合でも、歯が重なっている部分には汚れが溜まりやすく、虫歯や歯ぐきの炎症の原因になることがあります。
一方で、奥歯に被せ物が多く入っている方や、すべての歯並びを治す時間が取りにくい方にとっては、全顎矯正ではなく部分矯正が選択肢になる場合があります。
本症例では、奥歯の被せ物への影響をできるだけ抑えながら、前歯部に限定して矯正治療を行うことで、約1年という比較的短期間で前歯の歯並びを整えることができました。
治療後は、笑ったときの見た目が自然に整い、歯磨きもしやすくなるなど、口腔内環境の改善にもつながっています。
ただし、部分矯正はすべての方に適応できる治療ではありません。
ガタガタの程度が大きい場合や、出っ歯の程度が強い場合、骨格的なズレが大きい場合には、部分矯正ではなく全顎矯正が必要になることがあります。
そのため、「前歯だけ治したい」と思っている場合でも、まずは現在の歯並びや噛み合わせを正確に確認することが大切です。
当院には日本矯正歯科学会認定医が在籍しており、歯並びの見た目だけでなく、噛み合わせや歯の移動量、治療後の安定性まで考慮したうえで、部分矯正が適しているかを丁寧に診断しています。
無理に部分矯正をすすめるのではなく、患者様のお口の状態やご希望をふまえ、部分矯正で対応できる範囲と、全顎矯正が必要になる可能性についてもわかりやすくご説明します。
前歯のガタガタだけが気になる方、奥歯の被せ物をできるだけ触らずに治療したい方、短期間で気になる部分を整えたい方は、一度現在のお口の状態を確認してみることをおすすめします。
まずは当院にお気軽にご相談ください。
本記事は、ササキ歯科・ササキ矯正歯科の歯科医師が監修しています。
矯正治療では、見た目だけでなく噛み合わせや治療後の安定性まで考慮し、患者様のお口の状態に合わせた治療計画をご提案しています。
佐々木 智章
院長・歯科医師
佐々木 智章
略歴
- 2010年
- 愛知学院大学歯学部卒業
- 2011年
- 愛知学院大学臨床研修医
- 2012年
- アップルデンタルクリニック勤務医
- 2014年
- ササキ歯科・ササキ矯正歯科勤務
資格・所属学会
-
- 愛知県歯科医師会
- 名古屋市東区歯科医師会
- MDIベーシックコース
- MDIインプラントコース
- ストローマンインプラントコース
- CAD/CAM Curving & Polishing
- CAD/CAM Preparation & Training
- アストラテックインプラントシステムベーシックコース
- 顎咬合学会
- LCDCベーシックコース

佐々木 美枝
副院長・矯正歯科医
佐々木 美枝
略歴
- 2012年
- 朝日大学歯学部卒業
- 2017年
- 朝日大学大学院歯科矯正学講座卒業
- 2017年
- 朝日大学医科歯科医療センター ポストドクター
- 2022年
- ササキ歯科ササキ矯正歯科 常勤医師
資格・所属学会
-
- 歯学博士
- 日本矯正歯科学会認定医
- 日本矯正歯科学会
- 近畿東海矯正歯科学会

