「受け口が気になる」「横の歯でうまく噛むことができない」とご相談いただいた16歳女性の患者様です。
患者様は子供の頃から矯正治療を続けていましたが、成長に伴って下顎が大きくなり、上下の顎のバランスや噛み合わせにズレが生じていました。
検査を行ったところ、下の前歯が上の前歯より前に出る反対咬合に加え、奥歯を噛んでも前歯が噛み合わない開咬がみられました。
下顎骨の過成長を伴う骨格性下顎前突と診断し、上下の小臼歯を抜歯したうえで、ブラケット装置による矯正治療を行いました。
はじめに ― 成長とともに受け口が強くなってきた方へ
子供の頃に矯正治療を受けていても、その後の顎の成長によって歯並びや噛み合わせが変化し、永久歯がそろってから再び矯正治療が必要になることがあります。
特に、もともと受け口の傾向がある場合は、成長期に下顎が前方へ大きく成長することで、上下の前歯の位置関係が変わることがあります。
下顎の成長による影響は、前歯の見た目だけではありません。奥歯の噛み合わせにもズレが生じ、前歯が噛み合わない開咬や、左右の歯で噛みにくい状態につながることもあります。
今回ご紹介するのは、子供の頃から矯正治療を続けていたものの、下顎の成長によって受け口と開咬がみられるようになった患者様の症例です。
顎の成長が落ち着いたことを確認したうえで、上下の歯列全体を動かし、受け口と噛み合わせを改善しました。
初診時の状態

・16歳女性
・受け口が気になる
・横の歯でうまく噛むことができない
・下の前歯が上の前歯より前に出ている
・奥歯を噛んでも前歯が噛み合わない
・子供の頃から矯正治療を続けている
初診時は、下顎が前方へ成長したことにより、下の前歯が上の前歯より前に位置する反対咬合の状態でした。
さらに、奥歯を噛み合わせても上下の前歯が接触せず、前歯の間に隙間が残る開咬もみられました。
前歯だけでなく左右の奥歯にも噛み合わせのズレがあり、患者様が気にされていた「横の歯で噛めない」という症状にもつながっていました。
つまり、今回の症例では歯並びだけを整えるのではなく、成長後の顎のバランスをふまえ、歯列全体の噛み合わせをつくり直す必要がある状態でした。
下顎の成長によって受け口が強くなることがあります
成長期には身長が伸びるのと同じように、顎の骨も成長します。
一般的に、女の子は小学校高学年から中学生頃、男の子は中学生から高校生頃にかけて身長が大きく伸びやすく、それと同じ時期に下顎の骨も成長します。
この時期に上下の顎の成長バランスが変化すると、小学生の頃から矯正治療を受けていた方でも、永久歯列全体を対象とした矯正治療があらためて必要になる場合があります。
特に子供の頃から受け口の傾向がある方は、中学生以降に下顎が前方へ成長することで、受け口の傾向が強くなることがあります。
受け口の治療では、現在の歯並びだけでなく、身長の伸びや顎の成長が落ち着いているかを確認することが大切です。

反対咬合
下の前歯が上の前歯より前に出ている状態です。一般的に「受け口」と呼ばれます。

開咬
奥歯を噛み合わせたときに上下の前歯が接触せず、隙間が開いてしまう状態です。
まずは顎の成長と噛み合わせを正確に確認することから
今回の症例で大切だったのは、下の前歯だけを後ろへ動かすのではなく、成長後の上下の顎の関係と、歯列全体の噛み合わせを確認したうえで治療計画を立てることでした。
検査の結果、診断は下顎骨の過成長を伴う骨格性下顎前突でした。下顎の骨が大きく、上下の顎に前後的な骨格のズレがある受け口の状態です。
上顎は左右側第二小臼歯を抜歯して臼歯を前方へ移動し、下顎は左右側第一小臼歯を抜歯して前歯を後方へ移動する計画としました。
歯の移動量が大きく、歯の傾きや歯根の向きまで細かく調整する必要があったため、今回はブラケット装置によるワイヤー矯正を選択しました。
このように、上下それぞれの歯の移動を組み合わせることで、受け口と開咬の両方を改善し、歯列全体で噛める状態を目指しました。
治療の流れ:受け口と開咬をワイヤー矯正で改善した症例
今回の治療のゴールは、
・下の前歯が前に出た受け口を改善する
・前歯が噛み合わない開咬を改善する
・左右の奥歯でも噛める状態に整える
・歯列全体で均等に噛める噛み合わせをつくる
という4点です。
① 精密検査で顎の成長と噛み合わせを確認
上下の顎の前後的なズレや、反対咬合・開咬の程度を確認しました。これまでの経過もふまえ、身長の伸びや下顎の成長が落ち着いているかを確認しました。
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② 上下4本の小臼歯を抜歯
上顎では左右側第二小臼歯を1本ずつ、下顎では左右側第一小臼歯を1本ずつ抜歯しました。上下の抜歯スペースを利用し、それぞれの歯を計画した方向へ移動できる状態をつくりました。
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③ ブラケット装置とトランスパラタルアーチを使用
上下の歯にブラケット装置を装着し、上顎にはトランスパラタルアーチを使用しました。移動量が大きい症例では、動かす歯だけでなく、固定源となる奥歯を安定させながら進めることも重要です。
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④ 上顎の臼歯を前方へ移動
上顎では左右側第二小臼歯を抜歯したスペースを利用し、奥歯を前方へ移動しました。下顎との前後的な位置関係を確認しながら、上下の歯が噛み合うように調整しました。
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⑤ 下顎前歯を後方へ移動し、受け口を改善
下顎では左右側第一小臼歯の抜歯スペースを利用し、前方へ出ていた下顎前歯を後方へ移動しました。歯の傾きや歯根の位置を確認しながら、反対咬合の改善を図りました。
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⑥ 歯列全体で均等に噛める状態へ調整
治療の仕上げでは、受け口だけでなく、前歯が噛み合わない開咬や左右の奥歯の噛み合わせも確認しました。治療中に下顎左側の親知らずが生え始めたため、今後は状態を確認しながら抜歯を行う予定です。
受け口の見た目だけでなく、「横の歯で噛みにくい」という機能面の改善も目指しました。
矯正治療を行ううえでお伝えした注意点
今回の症例では、顎の骨格的なズレがあり、上下4本の抜歯を伴う矯正治療が必要でした。治療開始前には、治療の目的や期間、装置による違和感、矯正治療に伴うリスクについて丁寧にご説明しました。
① 抜歯が必要になること
受け口と開咬を改善し、歯列全体の噛み合わせを整えるため、今回は上顎2本・下顎2本の小臼歯を抜歯しました。
② 治療期間が長くなることがある
抜歯後の移動量が大きく、噛み合わせ全体を整える症例では、治療期間が数年に及ぶことがあります。本症例の治療期間は約3年でした。
③ 装置に慣れるまで違和感が出ることがある
ブラケット装置やトランスパラタルアーチにより、最初は話しづらさや食事のしづらさ、頬や舌の違和感を感じることがあります。
④ 治療中は歯磨きを丁寧に行うこと
矯正装置の周囲には汚れが溜まりやすくなるため、毎日のセルフケアや定期的なクリーニングが大切です。
⑤ 歯肉退縮や歯根吸収のリスクがあること
歯を動かすことで歯ぐきが下がる歯肉退縮や、歯根が短くなる歯根吸収が起こる可能性があります。
治療後の症例写真

治療後は、下の前歯が上の前歯より前に出ていた反対咬合が改善し、上下の前歯が自然に重なる状態へ整いました。
奥歯を噛み合わせたときに前歯の間へ隙間が残る開咬も改善しています。
左右の奥歯を含めて噛み合わせを調整したことで、前歯だけでなく歯列全体で噛みやすい状態を目指すことができました。
今回の症例では、下顎の成長に伴って生じた受け口と開咬に対し、抜歯を含めたブラケット治療を行うことで、見た目と噛む機能の両方の改善を目指しました。
今回のケースでの自費診療の費用
| 治療内容 | 数量 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 検査 | 1回 | 55,000円 | 初診時 |
| 診断 | 1回 | 33,000円 | 治療計画立案 |
| 矯正初期費用 | 1式 | 880,000円 | ブラケット治療 |
| 処置料 | 約36回 | 4,400円/回〜 | 月1回 |
| レントゲン検査 | 年1回 | 16,500円 | 治療経過確認 |
※治療期間は約3年、通院回数は約36回です。
※矯正歯科治療は、公的健康保険の対象外となる自由診療(自費診療)です。
※治療内容や期間、使用する装置により費用は変動する場合があります。
受け口・開咬を矯正治療で改善するメリット・デメリット
受け口の改善を目指せる
上下の前歯の位置関係を整え、反対咬合の改善を目指せます。
前歯が噛み合う状態を目指せる
開咬を改善することで、前歯で食べ物を噛み切りやすい状態につながります。
歯列全体で噛みやすい状態を目指せる
左右の奥歯も含めて整え、均等に噛める状態を目指せます。
抜歯が必要になる場合がある
骨格や歯の位置、必要な移動スペースによっては抜歯が必要です。
治療期間が長くなることがある
歯の移動量が大きい場合は、治療期間が数年単位になることがあります。
歯肉退縮や歯根吸収のリスクがある
歯を動かすことで歯肉退縮や歯根吸収が起こる可能性があります。
まとめ:成長後の受け口・噛みにくさが気になる方へ
子供の頃に矯正治療を受けていても、その後の下顎の成長によって受け口の傾向が強くなったり、噛み合わせが変化したりすることがあります。
本症例では、下顎骨の過成長により、下の前歯が前へ出る反対咬合と、前歯が噛み合わない開咬がみられました。
そこで、上顎左右側第二小臼歯と下顎左右側第一小臼歯を抜歯し、ブラケット装置とトランスパラタルアーチを使用して矯正治療を行いました。
その結果、受け口と開咬が改善し、左右の奥歯を含めて歯列全体で噛みやすい状態へ整えることができました。
成長期の受け口は、歯並びだけでなく顎の成長が関係しているため、成長の経過を確認しながら治療時期や方法を判断することが大切です。
当院には日本矯正歯科学会認定医が在籍しており、歯並びの見た目だけでなく、顎の成長や噛み合わせ、歯の移動量、治療後の安定性まで考慮したうえで、患者様に合った治療方法をご提案しています。
子供の頃に矯正治療を受けたものの再び受け口が気になってきた、前歯や横の歯で噛みにくい、上下の前歯が噛み合わないという方は、一度現在のお口の状態を確認してみることをおすすめします。
まずは当院にお気軽にご相談ください。
本記事は、ササキ歯科・ササキ矯正歯科の歯科医師が監修しています。
矯正治療では、見た目だけでなく噛み合わせや治療後の安定性まで考慮し、患者様のお口の状態に合わせた治療計画をご提案しています。
佐々木 智章
院長・歯科医師
佐々木 智章
略歴
- 2010年
- 愛知学院大学歯学部卒業
- 2011年
- 愛知学院大学臨床研修医
- 2012年
- アップルデンタルクリニック勤務医
- 2014年
- ササキ歯科・ササキ矯正歯科勤務
資格・所属学会
- 愛知県歯科医師会
- 名古屋市東区歯科医師会
- MDIベーシックコース
- MDIインプラントコース
- ストローマンインプラントコース
- CAD/CAM Curving & Polishing
- CAD/CAM Preparation & Training
- アストラテックインプラントシステムベーシックコース
- 顎咬合学会
- LCDCベーシックコース
佐々木 美枝
副院長・矯正歯科医
佐々木 美枝
略歴
- 2012年
- 朝日大学歯学部卒業
- 2017年
- 朝日大学大学院歯科矯正学講座卒業
- 2017年
- 朝日大学医科歯科医療センター ポストドクター
- 2022年
- ササキ歯科ササキ矯正歯科 常勤医師
資格・所属学会
- 歯学博士
- 日本矯正歯科学会認定医
- 日本矯正歯科学会
- 近畿東海矯正歯科学会
